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「ファジング」は雷とともに。雷雨が導いた偶然の試験法がエンジニアの未来をどう変えるのか?
テクノロジー

更新日:

2025.11.19
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「ファジング」は雷とともに。雷雨が導いた偶然の試験法がエンジニアの未来をどう変えるのか?

執筆: 大木 晴一郎

ライター

1988年の雷雨による偶然のソフトウェアクラッシュから誕生した「ファジング(fuzzing)」は、今やエンジニアに欠かせない脆弱性検出の手法の一つとなっています。本記事では、偶然から生まれた革新的なテスト手法の歩みと、その仕組み、メリット、さらにはAI時代における重要性をわかりやすく解説します。セキュリティや品質保証の現場で急速に広まったファジングが、これからのエンジニアにどんな未来をもたらすのかを探ります。

もくじ
  1. ファジングの起源と歴史
    1. 1988年の雷雨事故とBarton Miller教授の発見
    2. ファジング以前のランダムテストの系譜
    3. 1990年代から現代までの進化
  2. ファジングの仕組みと種類
    1. ファジングとは何か?基本概念の理解
    2. 主なファジングのタイプと活用シーン
    3. 他のセキュリティテストとの違い
  3. ファジングのメリットとエンジニアが意識すべきポイント
    1. 未知の脆弱性とバグ検出能力
    2. 自動化による労力・コスト削減の重要性
    3. 知っておきたいファジングの活用法と限界
  4. まとめ

1. ファジングの起源と歴史

1-1. 1988年の雷雨事故とBarton Miller教授の発見

ファジング(fuzzing)とは、コンピュータソフトウェアに対して無作為(ランダム)なデータを送り込むことで、バグや脆弱性を検出するテスト手法です。そのはじまりは1988年、米ウィスコンシン大学マディソン校のバートン・ミラー(Barton Miller)教授が研究室で経験した雷雨によるシステムクラッシュでした。

ある嵐の夜、研究室で使用していた端末が落雷の影響でノイズを受け、ソフトウェアが思わぬクラッシュを起こしました。この偶然の現象を観察したミラー教授は、「無作為に入力を与えたとき、プログラムはどのような挙動を示すのか?」という疑問を抱きます。そこで彼は、UNIX系のプログラムに対してランダム文字列を入力する実験を開始しました。その結果、多くのソフトウェアが予想以上に脆弱であることが判明したのです。

偶然紙一重で発見されたこの現象から、意図的にランダムデータを投入してソフトウェアの弱点を洗い出す「ファジング」という手法が生まれました。これまで見落とされがちだった予期しない入力に対するソフトの耐性を測定する、全く新しい発想のテスト法だったのです。

1-2. ファジング以前のランダムテストの系譜

ファジングが注目される以前にも、ランダム入力を使った「揺らぎテスト」や「ストレステスト」といった手法は存在していました。ソフトウェア工学における「ランダムテスト」は、入力を網羅的に生成するのではなく、確率的にサンプリングすることでバグ検出を試みる方法です。しかし従来は理論的な研究にとどまり、現場での活用度は限定的でした。

これらは主に性能評価や単純な耐久試験にとどまり、脆弱性検出を体系的に追求するものではありませんでした。Miller教授らが行った実験のユニークさは、「現実のソフトウェアに直接ランダム入力をぶつけてみる」という実践的な手法だった点にあります。

ファジング以前には、1981年にランダム入力を使用したプログラムテストの有効性を調査した研究論文が、Joe W. Duran氏とSimeon Ntafos氏により発表されていました。両氏はファジングやランダムテスト、モンキーテストの先駆者として知られています。

先行に対して、ミラー教授のファジングは、意図せぬ入力によるクラッシュをセキュリティ上の弱点と直結させ、検出対象を脆弱性に絞り込んだ点が異なるとされます。これにより、多数のプログラムで実際にクラッシュや不正動作が観測され、ランダム入力がセキュリティテストの有効な手段として広く認知されるようになりました。

1-3. 1990年代から現代までの進化

ファジングは1990年代以降、コンピュータセキュリティの観点から急速に発展しました。初期は単純にランダムデータを投入するだけのブラックボックス型ファジングが主流でした。しかし効率性や網羅性の課題があり、やがて入力形式を意識したホワイトボックス型やグレーボックス型へと発展します。

初期は単純なランダム入力だったものが、対象となるプログラムの構造や入力形式を解析しながら、効率的に脆弱性を狙い撃ちする手法へと進化したことになります。2000年代に入ると、コードカバレッジ(テスト時にどれだけのコードが実行されたか)を指標として入力を生成する技術が登場し、効率的にバグを突き止められるようになりました。

代表例が「AFL(American Fuzzy Lop)」で、オープンソースとして公開された後、セキュリティ研究者や企業の間で広く利用されるようになりました。2000年代にはオープンソースのファジングツールも登場し、多くの企業が自動化テストに取り入れました。ちなみに、American Fuzzy Lopはウサギの品種名です。American Fuzzy Lopで画像検索すると、可愛らしい姿が楽しめます。

今日ではGoogleのOSS-Fuzzのように、クラウド上で大規模に自動化されたファジング環境が整備され、LinuxカーネルやChromeなどの大規模ソフトウェアに適用されています。近年はAIを活用した高度なファジングも研究されており、脆弱性発見の精度向上と検証の効率化が加速しています。偶然の雷雨からはじまった技術が、今やインターネット全体の安全性を支えるインフラの一部になっています。

2. ファジングの仕組みと種類

2-1. ファジングとは何か?基本概念の理解

ファジングは、ソフトウェアに対して予期できない、あるいは意図しない「異常な」入力をランダムまたは半ランダムに送り込むことで、システムがクラッシュしたり予期しない挙動を示すかを監視し、その異常の原因となるバグや脆弱性を特定する方法です。

従来のテストは「仕様書どおりに動作するか」を確認するのが中心でした。しかしファジングは「想定外の状況でプログラムがどう振る舞うか」を確認するという点でユニークです。通常のテストとは異なり、仕様に沿った想定の範囲外を狙うため、未知のセキュリティホール発見に強みがあります。人間が思いつかないような入力データをコンピュータが大量生成して試すことで、手作業では到底気づけない不具合をあぶり出します。

2-2. 主なファジングのタイプと活用シーン

上でも紹介しましたが、ファジングには大きく分けて「ブラックボックスファジング」「ホワイトボックスファジング」「グレイボックスファジング」があります。

ブラックボックスファジングは、対象プログラムの内部構造を知らず、外部からの入力だけでテストする最も基本的なタイプで、広範囲の不具合検出に活用されます。プログラムの内部構造を知らず、外部からランダムなデータを投入する方式です。手軽ですが効率性に限界があります。

ホワイトボックスファジングは、プログラムの内部コードや構造を解析し、よりターゲットを絞った高度なテストを行う方法で、複雑な脆弱性を発見したいときに使われます。ソースコードを解析し、入力がコードのどの部分に影響するかを考慮してテストを行う方式です。高度な解析技術が必要ですが、効率的に脆弱性を突き止められます。

グレイボックスファジングは、内部情報の一部を利用しつつ、外部からのテストも実施する中間的な手法で、効率性と効果のバランスを重視します。ブラックとホワイトの中間で、プログラムの一部情報(たとえばカバレッジ情報)を利用して入力生成を最適化します。AFLなどはこの方式です。

活用シーンとしては、OSやブラウザといった複雑なソフトウェアの脆弱性検査から、IoT機器や組み込みシステムの品質保証まで幅広く使われています。活用例は、OSのセキュリティチェック、ネットワークプロトコルの検査、ウェブアプリの脆弱性調査、さらにはIoT機器など、多様な分野に広がっています。

2-3. 他のセキュリティテストとの違い

ファジングは、ペネトレーションテスト(侵入テスト)やコードレビューとは性質が異なるとされています。ファジングは「未知の不具合を暴く」ことに強みがあります。

ペネトレーションテストは人間の専門家が攻撃者の視点で脆弱性を探しますが、ファジングは自動的に膨大なパターンの異常入力を検査して未発見のバグや脆弱性を浮き彫りにします。ペネトレーションテスト攻撃者になりきってシステムに侵入可能かを確認する実践的な手法で、既知のリスクに対して有効ですが、まだ知られていない問題を発見する力は限定的な可能性があります。

一方、コードレビューはソースコードを解析し問題を指摘する手法ですが、理論的に正しく見えても実行時の異常には気づきにくいケースがあります。ファジングはこうしたテストと組み合わせて使うことで、より堅牢なセキュリティ対策を実現するものです。ファジングは、未知の領域を切り開く役割を果たします。

ファジングは万能ではなく、限界もありますが、他のテストと組み合わせることでより堅牢なセキュリティ体制を築けるのが特徴です。

3. ファジングのメリットとエンジニアが意識すべきポイント

3-1. 未知の脆弱性とバグ検出能力

ファジング最大のメリットは、未知の脆弱性を効率よく検出できることです。通常のテストでは想定できないような予期しない入力パターンを自動的に試すため、広範囲のバグを早期に発見できる可能性が高まります。

たとえば、ブラウザのレンダリングエンジンやPDFリーダーのように、多様で複雑な入力を扱うソフトウェアは、思わぬバグを抱えやすいものです。GoogleはOSS-Fuzzというプロジェクトを通じてオープンソースソフトウェアに継続的ファジングを実施し、数万件規模のバグを修正に導いてきました。この事例からも、未知の欠陥をあぶり出す力の大きさが理解できるでしょう。

3-2. 自動化による労力・コスト削減の重要性

さらに、ファジングは自動化しやすいのも魅力です。ソフトウェア開発では、テストにかかる工数がしばしば大きな負担となります。とくにセキュリティ分野では、手動での検証や侵入テストには専門知識と多くの時間が不可欠です。

その点、ファジングは一度環境を整えれば、自動的に膨大なテストケースを生成して実行してくれます。手動で多様なケースを検査するよりも短時間で大量のテストを行え、人手不足のエンジニアリング現場で労力とコストを大幅に削減できるのは強みと行ってよいでしょう。

また、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)環境に組み込むことで、開発中に常時ファジングを走らせ、問題発覚の遅延をなくすことも可能です。コスト削減だけでなく、開発サイクルの中で継続的にセキュリティ品質を高められるという点でも意義があるといえます。

3-3. 知っておきたいファジングの活用法と限界

ただし、ファジングにも限界はあります。ランダム性に依存するため、必ずしも全脆弱性を発見できるわけではありません。万能ではないという点を理解しておくことが重要です。

まず、ランダム入力だけではカバーしきれない領域があります。複雑な認証手順や、特定の形式に従ったデータでしか進めないコードパスは、ファジングだけでは探索が難しい場合があります。また、特定の入力条件が複雑な場合などは検出漏れも起こりやすく、単独使用では完全なセキュリティ担保は難しいとされています。

そのため、プロトコル仕様やアプリケーションの文脈を考慮した「知識ベース型ファジング」が必要になることもあります。

また、セキュリティに関していえば、検出したクラッシュやエラーがすべて「exploitable(攻撃可能な脆弱性)」であるとは限りません。解析には追加の工数がかかります。そのため、他のセキュリティテストとの併用や、AIによる効率的なテストケース生成が今後さらに重要になるでしょう。

ファジングは「隠れた問題を掘り起こすための強力なレーダー」であり、それをどう活かすかはエンジニアの判断にかかっているのかもしれません。

4. まとめ

「ファジング」は1988年の雷雨が偶然導いたテスト手法で、未知の脆弱性発見に強みを持つソフトウェア検査法です。ランダム入力で未知の脆弱性を発見するシンプルな発想が、今やセキュリティや品質保証の基盤技術となりました。自動化による効率化が図れる一方で限界も存在し、エンジニアには他のテストと組み合わせて持続的に安全性を高める姿勢が求められます。AI時代においても重要な存在として進化を続け、エンジニアの未来を支える不可欠な技術となっています。

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